「腰が痛いから、腰をほぐす」
それはごく自然な反応ですし、多くの方がこれまでそうしてきたのではないでしょうか。
でも実は――その“腰を直接どうにかする”という考え方が、改善を遠ざけていることもあるのです。
「整形外科や整体に通っても良くならない…」
「ストレッチやマッサージを続けてもスッキリしない…」
そんな慢性的な腰の不調に悩まされている方にこそ知ってほしいのが、“腰ではなく、身体全体から整えていく”という視点です。
この記事では、松本市の整形外科クリニックで多くの腰痛患者さんのリハビリを行なってきた理学療法士が、**「なぜ腰をほぐさなくても腰痛が和らぐのか?」**というテーマをもとに、胸椎や股関節の重要性、自分でできる整え方、そして腰痛を根本から見直すヒントをお伝えします。
ちょっと視点を変えるだけで、身体は驚くほど素直に反応してくれるものです。
あなたの腰が少しでも軽くなるきっかけになれば幸いです。
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1. なぜ“腰”だけを見ていても良くならないのか?
腰が痛いと、「腰に原因がある」と考えるのは当然です。
でも実際、整形外科でレントゲンを撮っても「骨には異常ありませんね」と言われ、湿布や痛み止めを出されるだけ…そんな経験をされた方も多いのではないでしょうか。
腰痛の多くは、画像に映るような明確な損傷ではなく、動きのバランスの乱れや、身体の使い方の偏りによって引き起こされていることが少なくありません。
たとえば、腰をかばうクセがついたまま日常生活を続けていると、筋肉や関節が本来の動きを忘れてしまい、腰に負担が集中し続けるのです。
また、ぎっくり腰をきっかけに、なんとなく違和感が残ったまま慢性化してしまう人もいます。
「もう歳だから仕方ない」「クセになってるだけ」と思われがちですが、**本当は“腰が悪いのではなく、腰に負担がかかる状態が続いている”**だけなのかもしれません。
だからこそ、腰痛の本質的な改善には、「腰をどうにかする」のではなく、“なぜ腰に負担が集中しているのか”という視点を持つことが大切なのです。
2. 身体は“つながり”で動いている

私たちの身体は、頭の先から足の先まで、**ひとつながりの“連動するシステム”**として動いています。
関節や筋肉、筋膜、神経――それぞれが単独で動いているのではなく、お互いに影響を与え合いながらバランスを取り合っているのです。
たとえば、足首が硬くなると、地面からの力をうまく吸収できず、その影響が膝や股関節、そして腰にまで及ぶことがあります。
あるいは、股関節や胸椎(背中)がうまく動かないと、身体の回旋や体重移動がスムーズにいかず、結果として“動かしづらい部分を腰が代わりに動いてしまう”という現象が起こります。
このように、腰が「悪い」のではなく、「無理に動かされている」だけというケースが非常に多いのです。
つまり、腰は“結果”として痛みを出しているだけで、本当の原因は別の場所にあるというわけです。
腰痛を本当に改善していくためには、「腰を診る」のではなく、「身体のつながりの中で、どこが滞っているか」に気づくことが大切です。
3. なぜ胸椎と股関節に注目するのか?
腰痛の改善において、私が特に重視しているのが「胸椎(背中の真ん中あたり)」と「股関節」です。
なぜこの2つが大切なのかというと、どちらも本来は大きく・滑らかに動くべき関節であり、腰への負担を減らす“クッション”のような役割を持っているからです。
まず胸椎は、背骨の中でも「回旋(ひねり)」や「伸展(反らす)」といった動きが求められる部位です。
ところが現代人は猫背やスマホ姿勢の影響で、胸椎がほとんど動かない状態になっていることが少なくありません。
その結果、体幹の動きが腰椎に集中し、腰が過剰に働かされてしまうのです。
次に股関節。ここは歩く・立つ・しゃがむといった日常動作の起点となる非常に重要な関節です。
股関節の柔軟性や筋力が低下してくると、骨盤の動きも鈍くなり、腰が“代わりに動かざるを得ない”状況が生まれます。
つまり、胸椎と股関節がしなやかに機能するだけで、腰は無理をしなくても済むようになります。
この2つの関節は、いわば“腰の味方”。
腰を直接いじるよりも、この“味方”を整えてあげる方が、身体は驚くほど自然に変わっていくのです。
4. 腰を触らないセルフケアの基本的な考え方
「腰が痛いのに、腰を触らないなんて本当に大丈夫?」
そんなふうに思う方もいるかもしれません。ですが、慢性的な腰痛の場合、**“痛みの出ている部分を直接いじらない方がうまくいく”**というケースはとても多いのです。
なぜなら、痛みがある部位というのは、多くの場合過剰に働かされている場所=がんばりすぎている場所だからです。
そこをグイグイ押したり、無理に伸ばしたりすると、かえって防御反応が強まり、筋肉がさらに緊張してしまうこともあります。
セルフケアで大切なのは、「ほぐす」ことではなく、“正しく動かす”こと。
そして、「感じる」こと。
たとえば、胸椎が気持ちよく回旋したとき、股関節がスムーズに動いたとき、それだけで腰の重だるさが軽くなる感覚があるかもしれません。
もうひとつ大切なのは、動きを小さく、ゆっくり、丁寧に行うことです。
一見地味でも、正しい関節に、正しい感覚で刺激を入れていくことが、身体の“戻る力”を引き出してくれます。
次章では、そんな考え方に基づいた「やさしい整え方」の具体例をご紹介します。
5. 今日からできる“やさしい整え方”(実践編)
ここからは、腰を触らずに行えるセルフケアとして、胸椎と股関節をゆるやかに整える方法をご紹介します。
どれも特別な器具はいらず、自宅で無理なく行えるものばかりです。
ポイントは、反動をつけずに、ゆっくり丁寧に“今の身体の感覚”を味わうこと。
無理なく、気持ちよく、身体が動きを思い出していく過程を大切にしてみてください。
① 胸椎を整える
胸椎にとって大切な動きは、「回旋」と「伸展」です。
以下の2つの方法は、どちらもイスと壁さえあればできるセルフケアです。
🔹 胸椎の回旋
- 背もたれとアームレストのある椅子に座ります
- 右に回旋する場合は、右手で背もたれを、左手で右側のアームレストを軽く持ちます
- みぞおちを軸にするようなイメージで、体幹をゆっくり右へねじります
- 「これ以上は行けない」というところで深呼吸をして、
吸気で肋骨が広がったら、吐く息で少しずつ胸椎をさらに回旋してみましょう
→ 呼吸を繰り返すごとに、自然と胸椎の可動域が広がっていくのを感じられるはずです
🔹 胸椎の伸展
- 壁の前に椅子を置いて座ります
- 頭の後ろで両手を組み、肘を閉じた状態で、両肘を壁につけます(目線より少し上の位置が理想)
- そのまま、顎とみぞおちを壁に近づけるようにゆっくり前傾します
→ 背中の上部が気持ちよく反ってくる感覚があればOK。
無理に反らすのではなく、呼吸を通じて“伸びていく感覚”を大事にしましょう
② 股関節を整える
股関節には以下の6方向の基本動作があります:
- 屈曲(曲げる)
- 伸展(伸ばす)
- 外転(外に開く)
- 内転(内に閉じる)
- 外旋(外にひねる)
- 内旋(内にひねる)
すべての方向に満遍なく動かしてあげることが、股関節本来の柔軟性と滑らかさを引き出す鍵になります。
🔹 全方向を網羅する簡単な方法
外旋・内旋などはイメージしづらいかもしれませんが、
**「股関節で大きな円を描くように回す」**だけでも主要な6方向をまんべんなく刺激できます。
- 立位や仰向けなど、自分が無理なく動かせる姿勢で
- ゆっくりと、大きく、股関節の付け根から“円を描くように”動かしてみてください
→ 音が鳴ったり、引っかかる感じがある場合は無理せず小さな動きから始めましょう
これらの動きを数分でも毎日少しずつ積み重ねることで、
腰にかかっていた“過剰な代償動作”が減り、腰が自然に軽くなっていく感覚を味わえるようになります。
6. 最後に――腰は、あなたの“がんばりすぎ”を教えてくれている
腰痛が続くと、つい「腰が悪いんだ」「歳のせいかな」と責めたくなるものです。
でも、私が臨床で多くの方と関わってきて感じるのは、腰は“悪者”ではなく、“がんばり屋”なのだということです。
本来、胸椎や股関節がしっかり動いていれば、腰はそこまで働かなくて済みます。
けれど、他の関節がサボっている状態になると、腰がそのぶんまでがんばりはじめる――
そしてある日、限界を超えて「痛み」としてサインを出すのです。
つまり、腰の痛みとは、「そろそろ身体全体のバランスを見直してほしい」というメッセージ。
そのメッセージにちゃんと耳を傾けてあげれば、身体はきちんと応えてくれます。
“整える”というのは、ただ形をまっすぐにすることではありません。
動き・感覚・呼吸・使い方――それらを本来の状態に戻していくこと。
それが、身体が持つ“戻る力”を引き出す本質的なアプローチだと私は考えています。
腰を責めるのではなく、労わってあげる。
その姿勢が、改善への第一歩です。
どう整えてよいか分からない、という方は是非お気軽に整体りびるどへご相談ください。
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