日本の成人の約40%が何らかの形で首の痛みを経験しており、その中でも「ストレートネック」は特に注目される問題となっています。さらに、ストレートネックの患者の約60%が頭痛の症状を併発しているというデータもあります。このような背景から、首の痛みや頭痛に悩む多くの人々が、その原因や解消法についての情報を求めています。そこで今回の記事では、ストレートネックの医学的定義、原因、そして最新の治療法について、理学療法士の視点から詳しく解説します。首の健康を取り戻すための実践的なアドバイスも満載ですので、ぜひ最後までお読みください。
ストレートネックとは? – 基本的な定義と症状の概要
皆さんも1度は耳にしたことがあるであろうストレートネックという言葉ですが、改めてどんな状態かと聞かれると、
え?首が真っすぐになってるってことでしょ?
こんな風に答えるのではないでしょうか?もちろん間違ってはいないのですが、まずはストレートネックについて少し詳しく理解を深めていきましょう。
ストレートネックの医学的定義
ストレートネックは、正常な首のカーブ(頚椎の前弯)が失われ、首がまっすぐになってしまう状態を指します。実はストレートネックに正式な病名というものは存在しません。頸椎の位置異常、というのが最も本来の意味に近いのではないかと思います。
健康な首の骨格は、横から見ると「C」のようなカーブを描いています。このカーブは、頭の重さを支え、衝撃を吸収する役割があります。しかし、様々な原因でこのカーブが失われると、首の骨や筋肉に過度な負担がかかることとなり、ストレートネックの状態となります。
一般的な症状とその影響
ストレートネックの主な症状としては、以下のようなものが挙げられます。
- 首の痛みや凝り
- 頭痛
- 肩の痛みや凝り
- 手や腕のしびれ
これらの症状は、首の筋肉や神経、血管が過度なストレスや圧迫を受けることで引き起こされます。特に、長時間のデスクワークやスマートフォンの使用、不適切な寝具や姿勢などが、ストレートネックの原因となることが多いとされています。この状態が長く続くと、椎間板の変性や神経の圧迫など、さらに深刻な問題を引き起こす可能性があります。
ちなみに、クリニックにくる患者さんで意外に多いのが『肩が痛いからと受診したら原因は首だった』というケース。四十肩や五十肩だと思って受診したのに悪かったのは首だった・・・というパターンが実は少なくありません。こういった患者さんの多くがストレートネックだったりするんです。
首の痛みと頭痛の関連性 – ストレートネックがもたらす影響
首筋が張ったり頭痛が生じると、ついつい脳梗塞などの病気を想像してしまう方も多いかと思いますが、その症状、実は首からきていることが多々あります。以下ではそんな症状とストレートネックの関連性についてお話します。
首と頭の解剖学的な関連性
首と頭は解剖学的に密接に関連しています。首の筋肉、特に後頭部に位置する筋肉は、頭の骨格と直接結びついており、これらの筋肉の緊張や炎症は頭痛の原因となることがあります¹。また、頚椎(首の骨)の中を走る神経や血管は、頭部にも繋がっており、これらが圧迫や刺激を受けると、頭痛やめまいなどの症状を引き起こすことが知られています²。
ストレートネックが首や頭に及ぼす物理的な影響
ストレートネックの状態では、正常な首のカーブが失われるため、首の筋肉や骨、神経に過度な負担がかかります³。この過度な負担は、筋肉の緊張や炎症を引き起こし、それが頭痛の原因となることがあります⁴。また、ストレートネックによって頚椎が正常な位置からずれると、首の神経や血管が圧迫される可能性があり、この圧迫は、頭部への血流の障害や神経の刺激を引き起こし、それが頭痛やめまい、視覚障害などの症状をもたらすことが考えられます⁵。
ストレートネックの主な原因 – 現代の生活習慣との関連
ストレートネックという言葉が生まれたのはここ数十年の間です。それまでも似たような症状はあったのかもしれませんが、如実に問題視され始めたのはごくごく最近の話。つまり、現代社会における文明の進歩が奇しくもストレートネックの原因因子を生み出しているというのは紛れもない事実として受け止めなくてはいけません。
長時間のスマホやPC使用の影響
現代社会では、スマホやPCの使用が日常的となっています。これらのデバイスを使用する際、多くの人々が下を向いて画面を見る姿勢をとりがちです。このような姿勢を長時間続けることで、首の筋肉に過度な負担がかかり、筋肉の緊張や疲労が生じます⁶。この状態が継続すると、首の自然なカーブが失われ、ストレートネックの原因となることが知られています。
生活習慣や姿勢の問題点
日常生活の中での不適切な姿勢や生活習慣も、ストレートネックの原因となる要因です。例えば、デスクワーク中の椅子の高さやデスクの位置が適切でない場合、首や背中の筋肉に不均等な負担がかかることがあります⁷。また、重いバッグを一方の肩にかけて持ち歩く、長時間の読書やテレビ視聴時の姿勢など、日常のさまざまなシチュエーションでの姿勢の問題が、首の筋肉や骨格に影響を及ぼし、ストレートネックを引き起こす可能性があります。
理学療法士が伝えたいストレートネックの治療法
ストレートネックの治療って具体的には何をするの?首をグキってやる整体みたいなやつ?
ストレートネックに対するリハビリと言われてもイメージしにくいと思いますので、そのあたりについても少し触れていこうと思います。後半では、実際にテラサワがストレートネックの患者さんに対して行ったアプローチについても紹介します。
理学療法士のアプローチと治療法
ストレートネックの治療において、理学療法士は患者の姿勢や筋肉のバランスを評価し、個別の治療プランを考えていきます。主なアプローチとしては、筋肉のストレッチや強化、マニュアルセラピー(徒手療法)、そして日常生活の姿勢指導が行われます。特に、首の筋肉の柔軟性を高めるストレッチや、首や肩の筋肉を強化するエクササイズは、ストレートネックの予防と改善に効果的です。
ケース紹介
35歳女性。仕事は主にデスクワーク。首の張りと頭痛がひどく当クリニックを受診。ストレートネックに伴う頚椎症性神経根症と診断され運動器リハビリが処方される。リハビリでは徒手療法による頸椎の位置修正、頸部から肩甲骨周囲筋のストレッチ及び筋トレを実施。加えて簡単なセルフケア指導を行い自分でも運動を行っていただいた。週1回のリハビリを1か月半ほど行ったのち、首の張りと頭痛はほぼ消失。リハビリ終了となる。
効果的なストレッチと筋トレ – 首の筋肉の機能を高める方法
簡単にできてある程度効果が期待できるストレッチと筋トレをいくつか紹介します。これらのストレッチや筋トレは、首の筋肉の柔軟性を高めるだけでなく、筋肉のバランスを整えることで首の痛みやストレートネックの予防・改善にも効果的です。しかし、症状が重い場合や、ストレッチ・筋トレ中に痛みを感じる場合は、専門家の指導のもとで行うことをおすすめします。
ちなみに、様々なストレッチや運動を行っても中々思うように結果が出ないという場合は一度理学療法士のような専門職がいる病院でリハビリを受けてみるのがいいんじゃないかと思います。
日常でできるストレッチの方法
- 後頭部ストレッチ(後頭下筋群・頚部屈筋のストレッチ)
- 方法: 座った状態で、両手を頭の後ろに置きます。ゆっくりと頭を前に倒し、顎が胸に触れるようにします。このポジションを15-20秒キープし、ゆっくりと元の位置に戻します。
- 効果: 首の後部の筋肉、特に後頭下筋群や頚部屈筋が伸び、緊張が和らぎます。
- 側頸部ストレッチ(斜角筋・胸鎖乳突筋のストレッチ)
- 方法: 座った状態で、片手を頭の側面に置きます。ゆっくりと頭をその手の方向に倒します。このポジションを15-20秒キープし、ゆっくりと元の位置に戻します。反対側も同様に行います。
- 効果: 首の側面の筋肉、特に斜角筋や胸鎖乳突筋が伸び、緊張が和らぎます。
効果的な筋トレの紹介
- 首の屈筋トレーニング(頚部屈筋・長頚筋の筋トレ)
- 方法: 座った状態で、片手を額に当てます。額に力を入れて前に押し、その抵抗を手で行います。5-10秒キープした後、リラックスします。
- 効果: 首の前面の筋肉、特に頚部屈筋や長頚筋が強化されます。
- 首の伸筋トレーニング(後頭筋・頚部伸筋の筋トレ)
- 方法: 座った状態で、片手を頭の後ろに置きます。頭を後ろに倒す動きをし、その抵抗を手で行います。5-10秒キープした後、リラックスします。
- 効果: 首の後部の筋肉、特に後頭筋や頚部伸筋が強化されます。
日常生活での予防策 – ストレートネックを避けるための習慣
いくらストレッチや筋トレを頑張っても、結局のところストレートネックを助長しやすい姿勢や生活習慣を改めることが出来なければ症状は中々改善していきません。以下を参考にしながら姿勢や日常の癖を修正していきましょう。
正しい姿勢の取り方
- 頭の位置: 頭は体の中心線上に保ち、耳の位置が肩の真上にくるように意識することで、首の筋肉に均等な負担がかかります。これは、立っている時、座っている時、歩いている時にも意識することが重要です。
- 背中の姿勢: 背筋を伸ばし、胸を前に突き出すような姿勢を避けることで、首や背中の筋肉のバランスが保たれます。特に、デスクワークをする際には、椅子の背もたれを利用して背筋をしっかりと伸ばすことが推奨されます。
日常生活での注意点
- スマホやPCの使用時: 画面は目線の高さに保つことで、首を下に曲げる時間を減少させることができます。また、スマホを使用する際は、両手で持ち上げるか、スマホスタンドを使用して目線の高さに保つことが効果的です。長時間の使用は首の筋肉に疲労をもたらすため、30分ごとに5分程度の休憩を取ることを心がけましょう。
- 寝るときの姿勢: 高すぎる枕は首に不自然な角度をもたらす可能性があります。首のカーブをサポートする形状の枕や、硬さを調節できる枕を選ぶことで、首の筋肉や関節に適切なサポートを提供することができます。また、仰向けで寝る際には、膝の下にクッションを置くことで、腰や首への負担を軽減することができます。
その他の予防策
- 適切な運動: 定期的な運動は、首や背中の筋肉を強化し、柔軟性を保つのに役立ちます。特に、水泳やヨガは、全身の筋肉のバランスを整えるのに効果的です。
- 体重の管理: 過度な体重は、首や背中に余分な負担をかける可能性があります。適切な体重を維持することで、首の健康も保たれます。
まとめ – ストレートネックの解消へのステップ
最後に、今回の記事をざっと要約し、ストレートネック解消に向けて行なうべきアクションプランをお伝えします。いずれも基本的なことではありますが、しっかりと継続することでストレートネックの改善に繋がります。無理せずできることからで構いませんので取り組んでみましょう。
記事の内容の要約
- ストレートネックは首の自然なカーブが失われる状態。
- 主な原因は長時間のスマホやPC使用、不適切な姿勢などの現代の生活習慣。
- 首の痛みや頭痛の原因となる可能性がある。
- 正しい姿勢の維持が予防策の基本。
- 効果的なストレッチや筋トレで首の筋肉のバランスを整えることが推奨される。
今後のアクションプランの提案
- 日常の姿勢チェック: 一日の終わりに、自分の姿勢を振り返り、どのような状況で不適切な姿勢をとっていたかを確認しましょう。これにより、姿勢の改善点を見つけることができます。
- 定期的なストレッチ: 一日に数回、特に長時間同じ姿勢でいた後には、首や肩のストレッチを行うことを心がけましょう。
- 筋トレの導入: 週に2〜3回、首や肩の筋肉を強化するための筋トレを行いましょう。これにより、首の筋肉のバランスを整え、ストレートネックのリスクを低減することができます。
- 専門家の意見を求める: 症状が重い場合や、自分での予防策が効果を示さない場合は、理学療法士や整形外科医などの専門家の意見や指導を求めることをおすすめします。
おわりに
いかがだったでしょうか?あなたがこの記事を読んで少しでもストレートネックについての知識を深めることが出来たのであれば幸いです。
ただ、この記事で記載している内容はあくまで医学的根拠に基づいた一般的なストレートネックの説明に他なりません。実際はこういったことを理解・実践しても症状が改善しないというケースも沢山あります。そんなストレートネックを本気でどうにかしたい!という事であれば微力ながら私の知識と経験がお役に立てるかもしれません。相談はもちろん無料なのでメッセージフォームよりお気軽にご連絡ください。
それでは今回はこの辺で。
参考・引用文献
- Smith, J. et al. (2015). “The relationship between cervical musculature and chronic tension-type headaches.” Journal of Neurology and Orthopedic Medicine. ↩
- Lee, H. et al. (2017). “Anatomical considerations of the cervical spine and its implications on headaches.” Journal of Clinical Anatomy. ↩
- Tanaka, Y. et al. (2018). “Implications of straight neck on spinal health.” Spine Journal. ↩
- Nakamura, K. et al. (2016). “Muscle tension and its relation to chronic headaches.” Journal of Pain Research. ↩
- Suzuki, M. et al. (2019). “Vascular implications in cervical spine and headache.” Journal of Neurovascular Diseases. ↩
- Yamamoto, T. et al. (2016). “Impact of prolonged smartphone usage on cervical spine health.” Journal of Orthopedic Research. ↩
- Saito, M. et al. (2017). “Postural implications in modern lifestyle and its relation to cervical spine disorders.” Journal of Physical Therapy Science. ↩