1. 靴下を履く動作の中に潜む“股関節の壁”
変形性股関節症の方がよく訴えるのが「靴下が履きにくい」という悩みです。
これまで当たり前にできていた動作が難しくなるのは、生活の質を大きく低下させます。
その背景には、股関節の屈曲制限(太ももを引き込めない)や外旋制限(脚を外に開けない)が関係しています。
2. 股関節の制限が与える日常生活への影響
靴下を履くときは、単に足を持ち上げるだけでなく、体幹を前に倒し、膝を胸に近づけ、足を手元に引き寄せる複雑な動作が必要です。
股関節が硬いと、足を上げられない・膝が内側に倒れる・骨盤が後傾する、といった代償が起こり、結果としてうまく履けなくなります。
このような“小さな困りごと”が積み重なると、服の着替え・靴の脱ぎ履き・掃除・階段昇降といった日常動作すべてに影響します。
3. なぜ“生活の困難”に注目する必要があるのか?
痛みや変形といった医学的問題だけでなく、生活上の困りごとは患者さんの心理的ストレスを増幅させます。
「前はできたのにできなくなった」という喪失感、
「こんなこともできないのか」という自己否定感は、活動性の低下や抑うつにつながることも。
だからこそ、こうした小さな困りごとに寄り添い、具体的な改善策を示すことが重要なのです。
4. 靴下が履きにくいときのセルフケアの視点
- 姿勢の見直し
座るときに骨盤を立て、座面の少し前側に座ると、股関節の可動域を最大限活用できます。 - 支持面の確保
片脚を持ち上げるときは、反対側の足裏・座面・手すりなどを使い、身体を安定させましょう。 - 補助具の活用
靴下補助具や長柄の靴ベラなども有効です。
自力にこだわりすぎず、「工夫してできることを増やす」視点が大切です。
5. 股関節を整えるための簡単ワーク
- 仰向け股関節屈曲練習
仰向けで片膝を両手で抱え、腰を丸めない範囲で股関節を引き寄せる。 - 外旋可動域練習
座位で脚を軽く外に開き、股関節外旋を意識する。 - 骨盤前傾感覚練習
椅子に座り、骨盤を軽く前傾させた状態で座り直す。
これらを無理のない範囲で日々積み重ねることで、少しずつ身体の使い方が変わっていきます。
6. 小さな“できた”を積み重ねよう
生活の中の困りごとをゼロにするのは難しいかもしれません。
でも、少しの工夫で「前より楽にできた」「前は諦めていたことができた」という体験が増えると、自信や前向きさが育ちます。
股関節疾患のケアは、身体だけでなく心のケアも含めた総合的なアプローチなのです。
7. 生活の中から整える視点を持とう
治療や施術の場だけではなく、日常生活そのものが改善の場です。
靴下を履く・靴を履く・立ち座り・階段を上る――これらを「ただの作業」としてやり過ごすのではなく、
「どう支えるか、どう動かすか」を意識して取り組む。
それが、股関節と身体全体を整えるための第一歩です。
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