よくラジオ体操は健康に良いっていうけど、たまにネット記事とかで「医師はラジオ体操を推奨しない」なんてものもあるし…もしかしたら膝や腰に良くないの?
ラジオ体操が出来たのはなんと昭和3年。天皇陛下御即位の大礼を記念して「国民保健体操」と言う名で国民の健康保持増進を目的として実施されたのが始まりとされています。それ以来100年近くも日本国民に親しまれてきたラジオ体操ですが、クリニックで理学療法士として働いていると患者さんから「ラジオ体操は本当に健康にいいの?」「膝や腰に負担がかかるって聞いたんだけど実際はどうなの?」など、質問されることが多々あります。
そこで本記事では、理学療法士としての視点からこういったラジオ体操に対する疑問に答えてみたいと思います。もちろんひとつの意見ですので、こういった考えが全てではありません。あくまで参考程度にはなるかと思いますがお付き合い頂けると嬉しいです。
ラジオ体操の効果についてのエビデンスはどうなのか
まずは医学的根拠についてはどういった事が言われているのでしょうか?改めて調べてみると、基本的には前向きな研究結果が多いなーという印象を受けます。例えば平成25年に行われたラジオ体操の実施効果に対する調査研究では、「ラジオ体操を3年以上、週5日以上行なっている55歳以上の男性221名、女性332名の計543名」を対象に体内年齢、血管年齢、呼吸機能、骨密度、体力年齢などの項目すべてにおいて良好な結果が示されているようです。
この研究は対象人数もそれなりですし、中高年以上の方にとってはやはりある程度の効果が見込めるという根拠にはなりそうです。中でも、継続的にラジオ体操を行っている人は体内年齢が実年齢より20歳若いというのは中々驚きでした。体力年齢についても女性は男性と比べどの年代も実年齢よりかなり若いので、特に中高齢者の女性にはラジオ体操ってかなり効果があるんだなという印象です。
では若年層に対しての効果はどうでしょう?正しく行なえば有酸素運動、筋トレ、ストレッチ、バランス運動としての効果が見込めるラジオ体操は子供にも有効、という意見は散見されますが、具体的に数値を示した文献データはあまり見かけません。ラジオ体操と子供の身体機能にフォーカスした研究をする研究者自体があまりいないのかもしれませんね(笑)
あと、気になるのは中高齢者がラジオ体操を行う上でのリスクについてです。具体的には
- 朝早い時間に行うことによる血圧変動等のリスク
- 腰痛、膝痛等がある方が続けるリスク
この2点で、気になるという人も多いと思います。この部分については様々な意見があり、ラジオ体操が健康に良いか悪いかという部分の判断材料として引き合いに出されることも少なくありません。一応、血圧等については基礎疾患が無いという前提で無理せずご自身のペースで体操を行えば、血圧の過度な変動は許容範囲内であり、腰痛や膝痛が過度に悪化するリスクは少ない・・・という解釈で問題はないのでは、といったところです。
ラジオ体操に対しての個人的な感想
小学生の頃、夏休みに義務感でやっていたラジオ体操。その頃は特に思うところもありませんでした。しいて言えば、朝から体操するのが面倒だなー、と感じるくらい。ただ、理学療法士として身体に関する様々な知識を得、年齢も40代が間近に迫った現在はそれなりにラジオ体操に対する受け止め方も変わってきます。
- 動きとしては解剖学的に理にかなったものが非常に多い
- スピード感があるのでついていくのがちょっと大変
改めてラジオ体操の第一から最後まで通して全力でやってみた感想は上記2つ。しっかりとやると運動量があるうえに関節もくまなく動かすためそこそこ息が上がります。仕事柄普段からそれなりに身体を動かしている自負はありますが、それでも疲労感はありました。
あと、すごく感じたのはラジオ体操のスピード感。小学生の頃は全然感じませんでしたが・・・いや、早くね?って。ある程度の年配者が同じスピードで、かつ丁寧に関節を動かしながらしっかりと最後まで完遂するにはそれなりのポテンシャルがないと大変かも、というのが素直な感想です。逆に言えば、それが出来ればかなり若い身体と言っても良いのではないかなと思います。
ラジオ体操は実際健康に良いのか悪いのか
ラジオ体操に取り組むこと自体は健康維持のためにとても有意義であるのは間違いないでしょう。ただ、やはり注意点はあります。それが以下の点。
- 自分に合った速度で行う
- 自分に合った可動範囲で行う
- ジャンプする動作は特に気を付ける
ひとつずつ詳しく説明していきます。
自分に合った速度で行う
これ、実はあまり意識しない点かなと思うんですが・・・個人的には非常に重要だと考えています。動作に対する全身反応時間は男性30歳、女性35歳が最も早く、それ以降は加齢とともに反応が遅くなるのに加え、筋力の低下や柔軟性の低下などの要素も加味すると60歳以降ともなればラジオ体操のノーマル速度についていくだけでも中々の労力になります。筋肉や関節に不具合があるのに無理してノーマル速度で体操を行おうとすると、無理はしていないつもりでも関節を痛めるといったリスクが生じてきます。
YouTube等の動画を利用し0.75倍速にして行えば、比較的ゆっくりとしたペースで体操を行うことが出来るのでオススメです。若干遅すぎるなー、くらいの方が丁寧に体操を行えるので是非一度試してみてください。ちなみに0.5倍速もやってみましたが、こちらはさすがに遅すぎてちょっとやりにくかったです(笑)
自分に合った可動範囲で行う
よく、自分のペースでやるべきという話を聞くと思います。あ、この記事でも言っていました(笑)大切なのは、自分のペースでやる=なんとなくやる、ということではないということ。ラジオ体操で意識すべき関節の動かし方や動きの向きに関しては出来るだけ丁寧にやらないと効果が得られません。
ただ、関節を動かす範囲に関しては無理せず心地よく出来る範囲内でやる、というのがポイント。無理ない可動範囲で丁寧に関節を動かすことで、関節や筋肉に過剰な負荷をかけずに体操を続けることが出来ます。結局、膝痛や腰痛がある方がラジオ体操を行うことに対して医師が警鐘を鳴らしているのは、この辺りを丁寧にやっていないと身体を痛めるよー、という意味合いなんだと思います。
ジャンプする動作は特に気を付ける
この部分は特に注意しましょう。ジャンプする動作は間違いなく関節にかかる負担を大きくします。もちろんその人の状態に対して適度な運動負荷であればバシバシとジャンプしてもらっていいとは思いますが、以下のような人は注意してください。
- 元々膝が痛い、疾患がある
- 元々腰が痛い、疾患がある
- 骨密度が低い、骨粗しょう症と言われている
飛んじゃダメとは言いません。骨への適度な刺激は骨密度の改善に繋がるので、人によってはむしろ飛んだ方が良い場合もあります。ただこの辺りの負荷量は高齢になればなるほど、疾患が進行していればいるほどシビアに考えるべきなので・・・出来れば我々理学療法士のような専門職に意見を聞いてから判断したいところです。
ラジオ体操は・・・絶対やった方が良い
これは断言できます。絶対やった方がいい。特にある程度年齢を重ねてからは。
ただ、ある程度の留意点は常に頭の片隅に置いておかないと、逆に身体を壊してしまうという可能性もゼロではありません。本当に効果を突き詰めるなら、専門知識のある人間に自分の身体機能と照らし合わせてアドバイスをもらう、というのが最善です。それが出来るのであれば、ラジオ体操こそお金をかけずに出来る最高の健康ツールになると思います。
ということで、今回の記事は以上になります。また次回の記事でお会いしましょう!
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